訳有って禁酒している。
酒を絶ってわかったことがある。
どうやら俺は酒が好きというよりは
酒場が好きだったのだなということが。
だから飲みの席を断りはしない。
こっちはしらふでも相手はどんどん壊れて行く。
陽気になり、あることないことしゃべりだし、
呂律が怪しくなり、目が座り、同じ話を何度も
繰り返し…ははぁ、これは俺だ。
酒を絶ってわかったことがある。
どうやら俺は酒が好きというよりは
酒場が好きだったのだなということが。
だから飲みの席を断りはしない。
こっちはしらふでも相手はどんどん壊れて行く。
陽気になり、あることないことしゃべりだし、
呂律が怪しくなり、目が座り、同じ話を何度も
繰り返し…ははぁ、これは俺だ。
酔っぱらっていると面倒くさいと感じるような話も
しらふだと寛容になれるというか優しくなれるというか
不思議と素直に聞ける。
隣の席で突っ伏して寝ていた彼は突然ガバッと顔を上げ
俺の顔を見るなり(やぁ君か)という表情でニコッと笑い
なんの脈略も無く話し出した。
彼はそのキャリアを聞くと驚くほどの知る人ぞ知る
名ジャズピアニストだ。
白い無精髭を湿らせ舌の回らない口でぼそぼそと話し出す。
どうやら「老い」についての話らしい。
もう昔のようには弾けないと言う。
「みんな酒を止めればもっと弾けるって言うんだ。
でも止められないよ。酒飲まないと涙ばかり出る…」
しらふじゃなかったら聞き逃していただろうか。
今まで酔って聞き逃して来た言葉がどれだけあるのだろうか。
もっとも忘れるために飲む酒だ。
いちいち聞いちゃいないし言ったことすら覚えちゃいない。
世界中の酒場でそんな言葉が今夜もシャボン玉みたいに
浮かんじゃ消えしているのだろう。