オールナイトで映画を観た。
池袋界隈でひとり呑みした後、夜風が気持ちよくこのまま帰るのは
もったいないなと散歩がてら西口から東口に抜け文芸座を覗いたら
ちょうどあと10分程で一本目が始るところだった。
ハル・ハートリーという監督の特集で4本立。
予備知識ゼロ、飛び込み、始発待ち…なんかオレ、青春してるなぁ、
とちょっとテンション上がりぎみで中央のシートに深めに座る。
さすがにもう昔みたいなビール臭い館内ではないけれど、並びの席の
おっさんが映画が始った直後に寝息を立てていたのには笑った。
オールナイトというと思い出す話がある。
もうだいぶ前のことだが、武満徹の追悼番組に立花隆が友人として出ていた。
一種の興奮状態だったのか、彼は取り憑かれたように武満氏の想い出や功績を
早口でまくしたてていた。
涙ぐむことも無く理路整然と話していた彼が、武満氏からいつか聞たという
あるエピソードを話している途中、突然絶句し嗚咽した。
それは武満氏が初めてコンクールに楽曲をエントリーしたときの話だった。
登竜門的なそのコンクールに彼はそれなりに自信を持って望んだ。
ある音楽誌にその結果と批評が掲載されるというので彼はいそいそとその雑誌を
買い求め自分の名を捜した。結果は無惨なものだった。
そして、なによりも彼を傷つけたのは楽曲に対しての心ない批評だった。
「武満何がしの作品は音楽以前、論評の価値無し…」
彼はその雑誌を握りしめオールナイトの映画館で一人泣いた。
そんな話だったと思う。
深夜の映画館で泣いている若き日の友を想い、その隣でいっしょに泣いている。
我がことのように悔しがり涙する立花氏に僕はただただ打たれた。
行き止まりの夜。
オールナイトの映画館はそんな夜に優しい。
http://twitsound.jp/musics/tswv0lY40
『よく晴れた夜に』
缶ビールの匂いが染み付いたスクリーンに
踏み散らかされたポップコーン
深い寝息が聞こえる
行き止まりの夜をどうにかやり過ごし
逃げ込める場所を今夜も誰か捜してる
ふらついた体を投げ出す道端に
そっとまつげを撫でる風
重い目蓋を開ければ
ひとけのないビルの谷間には今にも
両手にこぼれ落ちそうな銀河が揺れてる
遠ざかる声をもう引き止めはしない
めずらしくこんなに よく晴れた夜には
たよりない明日を 追いつけない時を
のみほしてこの星空に抱かれて眠ろう
つかみかけた夢も 届かない想いも
あの河にすべて流そう 空のボトルと
おやすみ またいつか会おう
よく晴れた夜に