Diary-2012/6/29fr

訳有って禁酒している。
酒を絶ってわかったことがある。
どうやら俺は酒が好きというよりは
酒場が好きだったのだなということが。
だから飲みの席を断りはしない。
こっちはしらふでも相手はどんどん壊れて行く。
陽気になり、あることないことしゃべりだし、
呂律が怪しくなり、目が座り、同じ話を何度も
繰り返し…ははぁ、これは俺だ。

酔っぱらっていると面倒くさいと感じるような話も
しらふだと寛容になれるというか優しくなれるというか
不思議と素直に聞ける。
隣の席で突っ伏して寝ていた彼は突然ガバッと顔を上げ
俺の顔を見るなり(やぁ君か)という表情でニコッと笑い
なんの脈略も無く話し出した。
彼はそのキャリアを聞くと驚くほどの知る人ぞ知る
名ジャズピアニストだ。
白い無精髭を湿らせ舌の回らない口でぼそぼそと話し出す。
どうやら「老い」についての話らしい。
もう昔のようには弾けないと言う。

「みんな酒を止めればもっと弾けるって言うんだ。
でも止められないよ。酒飲まないと涙ばかり出る…」

しらふじゃなかったら聞き逃していただろうか。
今まで酔って聞き逃して来た言葉がどれだけあるのだろうか。
もっとも忘れるために飲む酒だ。
いちいち聞いちゃいないし言ったことすら覚えちゃいない。
世界中の酒場でそんな言葉が今夜もシャボン玉みたいに
浮かんじゃ消えしているのだろう。

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